だから私は雨の日が好き。【花の章】





にこやかな笑みを残して、社長は部屋を後にして行った。

うちの社長は完全に傍観者としてただ其処に居ただけだったのを思い出し、そちらへと顔を向ける。

そこにはとても厳しい顔をした社長が座っていた。


久しぶりに見た人を見定めるような目をした社長に、無意識に背筋が伸びる。

うちの社長はバリバリの営業気質の人なので、俺の仕事ぶりを冷静に評価しているに違いなかった。




「・・・尾上」


「はい」




低く良く響くバリトンボイスの社長は、静かに人の名前を呼ぶ時が一番恐ろしい響きの声になる。

その声は身震いをしそうな程の恐怖感と緊張を連れて来るのだった。


俺は真っ直ぐに部長に目線を向け、次の言葉をじっと待つ他になかった。




「企画提案としては百点をやりたいところだな。相変わらずいい頭の回転をしている。準備も十分だ」


「ありがとうございます」


「ただ、仕事の姿勢という意味では半分以下だな。お前、私情を挟んで仕事をしてるだろう?」


「・・・確かに、挟んでいます。ですが、私情があったからこそ、ここまでの企画に仕上がり認めて頂けたのです。結果が全ての営業にとっては、何よりのことだと思っています」




もはや、こじつけ以外の何物でもない言葉で社長をやり過ごすしかなかった。

俺の言ったことは、あながち間違いという訳でもないが、屁理屈と言われればそこまでだ。

それを覚悟の上で言った訳ではない。

それでも口を吐いて言葉が出ただけでも自分を褒めてやりたい気持ちだった。




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