だから私は雨の日が好き。【花の章】
「――――――ブハッ!!!」
「っ!?」
「なんだ、その取って付けたみたいな言い訳はっ!・・・クククッ、お前、口ばっかり上手くなっても仕事は出来るようにはならないんだぞ・・・ブハッ!」
「しゃ・・・社長・・・?」
「いやぁ、いい社員に育ったもんだ。最初は上っ面だけで仕事してたヤツが、上っ面以上の口車まで手に入れてるなんてなぁ」
「あ、あの・・・」
「尾上。お前は経営に回るべきだ」
こんな、他の会社の応接室でするような話だろうか。
けれど、この人はこういう人なのだ。
場所や時間を気にするのではなく、人生に数回しか訪れないその人のタイミングを逃してはいけない、という信念で生きている人。
そのタイミングを見つけることが出来る人だからこそ、人を育てるのが上手いのだと思う。
その瞬間が、俺にも今訪れた、ただそれだけだ。
「社長、それは・・・」
「この企画を通したら、経営企画部をまとめろ。そして、お前は『作り上げる』のではなく『譲り渡す』ための仕事をしろ」
「・・・それは、部下の育成をしろ、と?」
「それだけでは困る。お前が経営に携わるということは、生産性を求められるということだ。お前の部署の生産性を、今の倍・・・いや三~五倍に引き上げろ」
無茶苦茶なことをこの人は言う。
生産性を上げるためには受ける仕事の額を引き上げ、その上で今と同じ、もしくは少し減らした少数精鋭で仕事をして行かなくてはいけないということだ。
けれど、これは『提案』ではなく既に『決定』という口調で伝えられたことだった。