だから私は雨の日が好き。【花の章】





「それは、既に決定事項ということで宜しいですか?」


「いや、まだだ。会長を説き伏せる・・・いや、違うな。会長の御眼鏡にかなうことが出来れば、それは決定事項に変わる。覚悟してかかれ」


「わかりました」




俺に迷いなど無かった。

社長から与えられる課題は、俺が越えられるかどうかのギリギリのラインでそれを与えて来る。

ゴールが見えそうで見えない、そして予測など付けられない人的要因についての事項を加えてくるのだ。


与えられるこちらとしては『たまったものではない』という一言なのだが、それを越えていけばまた違う仕事が出来るようになることも知っている。

結局『そこに山があるから』精神で、人はその与えられたものを越えて行こうとするのだろう。

それが人間の性であること、そして、自分の会社の人間はその精神を持っている者だけという信念のもと、この人は社長を生業としているのだ。



満足したような目を俺に向けて、目の前の人は笑った。

この人のこういうところを、俺はとても好きなのだと再確認をした。




そして気付かされた。

俺のすることは一つだ、と。




何が何でもこの会社の会長に俺を認めさせること。

それが出来れば、俺は仕事でまた一つ、山を目指すことが出来る。

プライベートでも一つ、傍に大切な人を置いた新たな生活を始めることが出来る。

どちらにせよ、俺の新たなスタートのためには、ここの会長に認めてもらうことが絶対条件なのだ、と再認識をした。



そんなことを考えながら、俺も社長に向かって笑った。




それと同時に、応接室のドアがノックされる音を聞いた。




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