だから私は雨の日が好き。【花の章】
「御堂から報告が上がって参りました。何でも、とても画期的なご提案だと。こちらの企画は、佐藤社長が?」
「いえ。もちろん承認はしていますが、企画自体は尾上が担当しています」
「まぁ、お若いのに優秀なのね。概要には簡単に目を通させて頂きました。その上で、私に何か伝えておくべきことはありますか」
にっこりとした表情とは対照的の、人を見定める目をしている。
それは決して人を見下す目線ではなかった。
真意を見抜こうとしているのが良く分かる、洞察力に優れた視線。
それは純粋に『俺自身』という人間を知りたい』という声が聞こえてきそうな程だった。
その目に笑う。
不敵に笑っては余計に腹の底まで見抜かれてしまうのを、俺はどこかで知っていた。
ならば。
隠すことのない『俺自身』で見極めてもらう他ない、というだけだ。
「では、一つだけ」
「どうぞ」
「私の第一印象を教えて頂けますか」
社長が息を呑む音が聞こえて、そっとそちらへ振り向く。
困ったような表情で笑い『すいません』という意味を込めて目を向けた。
すると、社長は目を見開いて驚き、開いた目を優しそうに細めて俺を見た。
そういえば、そうだったな。
俺の外ヅラの厚さは社会人になった時には既に完成形で、社長はその顔を『仕事では合格、人としては疑問』と表現したんだ。
それはある意味で正解であり、ある意味で俺にとって真意ではない。
笑った顔のまま御堂会長に表情を戻す。
その目線の先には、何も言葉を発しない会長がいた。
緊張が走る。
静かな部屋に、静かな声が響いた。