だから私は雨の日が好き。【花の章】
奪還
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「以上になります。他に何かご不明な点はございますか?」
「いいえ、結構よ。ごめんなさいね、お一人で呼びつけてしまって」
「いえ。社長からも一任されていますので、全く問題ありません」
『そう』と嬉しそうに笑って、秘書の方が用意してくれた紅茶に手を伸ばす。
今日は改めて企画の説明と今後のスケジュール、金額の調整など具体的な始動に向けて打ち合わせをしに来ていた。
先日お邪魔した日は本当に忙しい一日だったようで、十分だけでも時間を貰えたことは奇跡のようなものだ、と後で御堂社長に聞かされた。
翌日に社長宛てにわざわざ謝りの電話を頂き、改めて企画について話し合いたいということで三日後である今日に呼び出されたのだった。
「では、本格的な始動は来年度以降ということでいいのかしら?」
「もちろんです。急にうちのようなベンチャーに全てを任せるのが不安、という社員の方もいるでしょうから、半年かけて我が社の実力を浸透させて頂きたいです」
「そうね。今後のイベントには参加して頂いて、他の会社との人脈も上手く使って下さい」
「ありがとうございます。では、そのように佐藤にも報告を上げさせて頂きます」
今後の方針は決まった。
しかし、それでも御堂会長が席を立つことはない。
流れる緩やかな空気は、俺をまだ帰さない、という空気に感じていた。