だから私は雨の日が好き。【花の章】





「尾上さん、義姉夫婦がご迷惑をおかけしているようね」




静かに言葉を落としながら、持っているティーカップから視線を上げない御堂会長は、俺の現在の状況をとても詳しく把握しているのだと分かった。

何の言葉を発するでも無く真っ直ぐ会長を見つめている俺に、困ったような視線を投げかけながらティーカップをテーブルのソーサーへと戻した。




「私はたまたま実業家として今の夫と知り合ったから、御堂や南の家の事情なんてものに縛られることはなかったのだけれど。夫は今でも、御堂の家に縛られていると感じることがあるわ」


「ご主人も共同経営者として、一緒に事業展開をなさっているのでは?」


「ええ、名目上は。けれど、結局は御堂の母体である貿易会社で今も常任理事として兼務をしているわ。一人で事業を大きくしてきた私と、家に縛られて事業を展開し続けなくてはいけない彼とでは、根本的なものが違うのよ」


「・・・それが、その家に生まれた責任だ、と。会長は、そうお考えになりますか?」




聞いていいのかもわからず。

けれど、聞かずにいるだけの我慢強さなど持ち合わせていない俺は、疑問に思ったことをそのまま目の前の人にぶつけた。

失礼に当たることなのかもしれないが、この人はきっとそんなことを考えたりはしないだろう。

オブラートにくるんだように回りくどい質問をすることの方が、この人は嫌悪感を露わにするのだろう、と思った。




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