だから私は雨の日が好き。【花の章】
「そうね。責任はあるわ。ただ『その家に生まれたというだけ』だと人は言うかもしれないけれど、『その家に生まれた責任』というものがあると、私は思っているわ」
「それが、水鳥さんにもある、と?」
「『無いとは言えない』が正解ね」
この人は水鳥嬢の伯母上に当たる方。
正確には、水鳥嬢の母上の義理の妹、叔父上の奥様なのだ。
この人は今は御堂の姓を名乗っており名家へ嫁ぎはしたものの、もともと自分で事業を立ち上げ一代で会社を大きくした実業家。
『御堂の力を借りずに事業を進めていく』という信念のもと、このジュエリーブランドを展開している人なのだ。
以前見たインタビューでは『御堂の名前を貰っても、私は私であることに変わりがない』と答えていた。
それはどんな家柄を重視する家であっても、自分自身で選択をすると体現しているようなメッセージだと思った。
そんな人であれば、水鳥嬢の現状を知って何か力になってくれるのではないか、という淡い期待を持っていた。
いや、この人に何かをしてもらおうと思った訳ではない。
この企画に納得してもらい『俺』という人間を認めてもらうことで、水鳥嬢への両親に逢う足掛かりに出来ないか、と。
あわよくば『柴田財閥』へ通ずる何かを見つけ出すことが出来るのではないか、と。
本来であれば年度が替わる頃に提案をし、次年度のウェディングフェアに向けてのプレゼンをしようと思っていたのだが。
思い切り私情を挟んだ俺の都合で、今のタイミングで会長を丸め込もうと画策したのだった。