だから私は雨の日が好き。【花の章】
「南の家に生まれた責任は、きっと御堂とは比べ物にならないでしょう。それでも水鳥さんを自由にさせていたのは、令嬢という世間知らずに育てないためよ。水鳥さんが一般就職を選んだのも、彼女の意志を尊重したからに他ならないわ」
「そうですね。本来であれば店頭に立っているような人ではないのでしょうから」
「南の姓を授かった責任として、彼女の婚約があるのよ。・・・残念ながら、それを覆すのはとても難しいことだわ」
「ちなみに、私が水鳥嬢との繋がりをご存知な理由は?」
「身辺調査、よ。ごめんなさいね、こんなことが日常茶飯事になってしまっているような家なのよ」
御堂会長は申し訳なさそうに目を伏せた。
俺は相手にしている家の大きさに驚きはしたものの、それに対して畏怖を感じるようなことはなかった。
身辺調査をされているということは、ある程度俺の素性も知られているということだ。
ならば、これ以上の小細工をしても仕方がないことのように思えた。
今日此処に呼ばれたのは、半分は仕事だ。
しかし、俺は仕事だけで呼ばれたのではない、ということを薄々感じていた。
そしてそれは間違いではなかった。
だが、そのおかげで俺は水鳥嬢へと続く道を見出すことが出来た。
やはり俺が御堂会長に望みをかけたのは、決して間違いではなかった。
自信満々に笑う俺を見て、御堂会長は不思議そうに俺を見つめていた。
気が振れたわけでも自嘲的になった訳でもない。
ある一つの方法を閃いたからこそ、俺はこうして笑っているんだ。