だから私は雨の日が好き。【花の章】
御堂会長は立ち上がり、内線電話を手に取った。
話をしているのはどうやら御堂社長のようで、すぐに手続きの件とアポイントの連絡を取る様に、という伝言だった。
まさかと思うが、会長の秘書の役目まで社長がこなしているのか、と。
恐ろしい量の仕事をこなしている社長を思って、さぞ気苦労が絶えないだろうと不憫に思った。
電話を切った会長は俺の目の前にもう一度座る。
仕事の顔をしたこの人は、会長職へと退いたというよりは『会長職』という階級を手に入れた、という表現の方が相応しい様に思った。
「それで、何処まで予想していたのかしら?」
「・・・何のことでしょうか」
「貴方が私に無意味な提案をするわけがない、と。それくらいのことは理解しているつもりです」
その言葉だけで十分だった。
俺の考えた水鳥嬢までの道のりを、目の前の人に説明しなくてはいけないことを、俺は瞬時に理解した。
最初の関門はこのBijou-brillant(ビジュ・ブリアント)。
この会社との取引が成立しないことには、この先の道筋など作ることは出来ない。
水鳥嬢の伯母上である御堂会長に見初めてもらうこと。
この人が俺のことを『価値ある』と認めて貰うことだ。
そうすれば、おのずとその先の道が開けると。
俺はそう考えた。
Bijou-brillant(ビジュ・ブリアント)と仕事をするということは、ブライダルに関わる全てと仕事をするということだ。
それはつまり、メイクからドレス、結婚式に相応しい会場・設備、照明から撮影舞台や機材まで、ありとあらゆるものが必要ということだ。