だから私は雨の日が好き。【花の章】
手っ取り早いのはメイク関係を水鳥嬢の会社に頼むことだったが、そことの交渉は簡単ではない。
身辺調査をされたということを加味すれば、イチ営業である俺と『会う道理がない』と言われればソレまでだ。
門前払いをされてしまえば直接交渉など見込めない。
俺が懸念していたのは『会ってもらえない』という唯一点で、会えないということは『理解をしてもらえない』のと一緒であると考えていた。
ならば。
それよりももっと先の人物に交渉をするまでだ。
これから先の企画に関する予算に関わる問題だが、御堂会長が納得をしてくれさえすれば予算の引き上げは可能だろう。
予算さえ獲得してしまえば、柴田財閥グループならびに関連会社を利用してイベントや広告撮影を出来る。
御堂と南の家の繋がりを知っている以上、柴田も御堂会長と直接会う機会を設けるに違いないと踏んだ。
この場で御堂会長が柴田へのアポイントを取ってくれるとまでは想像していなかったが。
俺は予想以上にこの人に気に入られているのだと自覚することが出来た。
何にせよ。
そのアポイントに企画担当者として同席することさえ出来れば、後は俺が何とかするだけだ。
正直、これ以上先のことは読めない。
企画を台無しにするのはもっての外なので、その場で事を荒立てるようなことは出来ないだろう。
かと言って、別に席を設けて話をするチャンスをくれる程、相手だって甘くはないはずだ。
仕事と私情を混同しているせいで身動きが取りづらい。
それでも。
どんなに身動きが取れなくても、水鳥嬢へ続く道だけは諦めることが出来なかった。