だから私は雨の日が好き。【花の章】
水鳥嬢は抑圧されていたわけではないけれど、確かに『箱入り』だった。
それは、一番近くで彼女に接してきた俺だから分かる。
育てていく中で、その箱を自分で打ち破る瞬間を何度も見てきた。
卵の殻に包まれていた幼子のような姿から、自分で翼を広げて新しい世界を知ろうとしていく大人の女になるまで。
俺が育ててきたのだから。
けれど、会長の口ぶりは『自由になること』そのものに問題があるとは言っていなかったのだ。
「自由の先・・・ですか?」
「そう。自由になることが悪い訳じゃない。むしろ、水鳥はとても自由な環境で、家の大きさに囚われない育ち方をしてきたのよ。もちろん良い教育を受けてはいるけれど、世間知らずではないはずだわ」
「ええ。むしろ名家のお嬢様だと伺った方が驚きでした」
「そういう育て方をした義姉夫婦を尊敬しているわ。けれど、自由の先にある『自分の足で進んでいくこと』を許す訳にはいかなかったんじゃないかしら」
自分の足で進んでいくこと。
自分で道を決め、自分で選択をし、自分で築いていくこと。
それは家を守ることとは全く別の生き方なのかもしれない。
「自由の先にあるのは、家を捨てる道、だと?」
「そうなる可能性を秘めているものだ、と。そう考えているでしょうね」
家に守られることは、時として絶大な力を持っているものなのだろう。
けれど、水鳥嬢は守られるばかりの小娘ではない。
仮面を被って大人ぶっているわけでもない。
かといって、純粋な少女のままでもない。