だから私は雨の日が好き。【花の章】

結末






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「じゃあ、元気で」


「あぁ。今度はすぐに飛んで行ってやれない距離だから、泣き言はテレビ電話で聞くよ」


「・・・優しいのね。イイ男になったじゃない」


「姉さんの弟だからな」




別に今生の別れじゃない。

そんなこと分かっているけれど、俺達は身を引き千切られるように苦しかった。

義兄さんは栄転だし今度こそ家族揃って暮らすことが出来るのに。

心の底から『おめでとう』と言って送り出してやるつもりだったのに。


何故か、そんな気持ちにはならなかった。


出発ロビーは賑やかな喧騒が溢れている。

笑顔でゲートに向かっていく家族や恋人たちばかりが目に入り、それはとても幸せな光景のように想えた。



それなのに。

見送りをする俺と、見送りをされる姉。

俺達だけは嬉しさよりも切なさに満ちた空気を放っていた。




「水鳥ちゃん・・・、間に合わなかったわね」


「仕方ないだろ?こればっかりは、どうしようもないって」


「カズ、一人で大丈夫なのかい?家を空けておくわけにいかないから、すぐに引っ越しだろう?」


「大丈夫だよ、義兄さん。業者に頼んで終わりだし。俺は配置の指示をするだけだから」


「それならいいけど」




眠そうな姪を抱き上げて、困ったように義兄さんが笑う。

姉が俺へと目配せをした。




今日は姉と義兄さんがスイスへと出発する日だ。

空港に、いや、俺の横に。



水鳥嬢はいない。




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