だから私は雨の日が好き。【花の章】
「会いに来いよ」
「あぁ。姉さんを頼む」
「任せとけ。カズはしっかり水鳥ちゃんの傍にいてあげるんだぞ」
「・・・そうだな。出来るように頑張るさ」
義兄さんと抱き合い、頬を寄せる。
これは我が家の家族儀式みたいなもんで、幼いころから姉とはキスを、男性とは頬擦りをする習慣みたいなものがある。
俺は大して憶えてはいないのだが、幼少期に海外にばかりいた姉の影響を大きく受けているからなのだ、と。
自分で周囲の状況判断を出来るようになった頃、気付いた。
義兄さんの俺を抱き締める腕はいつまで経ってもぎこちないが、今日はいつもより優しく感じた。
そのことが、簡単には会えない距離に行ってしまうことをより実感させてしまうようだった。
――――"Good afternoon passengers. This is the pre-boarding announcement for ____ Airlines flight ――――"
スイスに行くためには、一度国内にある大きな国際空港を経由して行かなくてはいけない。
優先搭乗アナウンスが流れて俺達は距離を取る。
あぁ。
本当に遠くへ行ってしまうんだな、と。
力ない笑いを浮かべながら、それでも目の前の姉夫婦が幸せになれますように、と笑った。
今の俺に、何が言えるだろう。
俺はたった一人で大切な家族を見送る。
どんな言葉だって、薄っぺらで、拙くて、俺の気持ちを汲んでくれやしないのに。