だから私は雨の日が好き。【花の章】
――――――カツンッ、カツンッ――――――
同じような笑顔を浮かべて、姉さんがゲートへと足を進めていく。
義兄さんが荷物を持ってその背中を追いかけ、そっと姉さんの背中に手を置いた。
姪を抱きしめる姉の背中は小刻みに震えていて。
それを見つけた俺はグッと息を詰まらせた。
――――――カツンッ、カツンッ!―――――
そうか。
もう簡単にその背中に触れてやることは出来ないのか。
まるで恋人が遠く離れて行ってしまうような絶望感に打ちひしがれながら、俺は立ち竦む。
これ以上此処から動ける訳なんてない。
次に会えるのはいつになるのか、と。
そんなことを考えてしまったら、いつも見送ってきたその背中を目に焼き付けることしか出来ない。
姉さん。
いつも俺の少し先を歩く姉さん。
すぐに振り返って俺を見てくれる姉さん。
六歳の頃からたった二人だけの世界で、俺を支え続けてくれた大切な家族。
――――――カツンッ!カツンッッ!!――――――
ピタリと姉が足を止めて、ピクリと肩を揺らす。
振り向いた姉は泣いていた。
けれど、俺を見つめてゆるゆると笑顔になっていく。
泣いたまま笑ったその顔は、いつもと変わらない俺の姉さんの顔だった。
俺の一番好きな素のままの姉さんの笑顔だった。
「行ってきます!」
あぁ、そうか。
簡単なことじゃないか。
俺も笑った。
泣かないのは、せめてもの意地だ。
俺が大人になった証拠なんだ。