だから私は雨の日が好き。【花の章】
「俺は説教をしただけですよ」
「説教?」
「はい。『いつまでもフラフラしてんじゃねぇ!お前は一体、何がしたいんだ』って」
「お前、そんなこと言ったのか?」
「言いましたね。・・・時雨の気持ちなんて、知らなかったですし」
知らなかったんだ。
時雨がどんなに傷付いていて、どんなに苦しかったのか。
そんなに大切な人を亡くしていたなんて思いもしなくて。
現実から目を背けている時雨に、少しでも現実を見て欲しかったから。
『俺が此処にいる』という、現実を。
「――――ハハハッ!やるな、森川っ!」
「そんなに笑うことですか?」
「いやぁ、笑えるね」
弾けたように笑う櫻井さんを見て、俺も一緒に笑った。
痛々しい自嘲的な笑いで笑った。
浅はかだった自分が、馬鹿らしくて。
そんなに大きな痛みを持っていた時雨に、ただ『俺を見て欲しい』という気持ちをぶつけていたなんて。
大馬鹿過ぎて、笑う以外の何が俺に出来る?
櫻井さんはそんな俺を見て、おもむろに立ち上がった。
飲み干した缶ビールを潰しながらキッチンへ向かう。
心なしか力強く潰された空き缶が気になったが、その背中をぼんやりと眺めていた。