だから私は雨の日が好き。【花の章】
Conclusion.
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「水鳥さん、本当にいなくなるんですね」
「あら、寂しいの?櫻井くんとはこれからも一緒に仕事をすることになると思うんだけど」
「そりゃそうですけど・・・、うちの部署、むさ苦しくなるなぁって」
「そう言わないの。きっといい子が入ってくれるわよ」
しょぼんとしている部下を見つめながら、水鳥がポンと肩を叩く。
上長として正確に仕事をこなす部下は、父親になったというのに以前よりも幼い部分を曝け出すようになった。
それは一緒にいる嫁のおかげなのだろう、と、改めてその女性の偉大さを知った。
水鳥の職場のデスク周りには、もう私物が無い。
俺が引き抜いてからの十年もの間、随分分長くいてくれたたものだ、と感慨深い気持ちになる。
しかし目の前の彼女は、次に任される仕事がある嬉しさが滲み出ているようだった。
「それにしても、このご時世に人材会社なんて、よく起業するつもりになりましたね?」
「別に起業した訳じゃないわ。所長を任されただけよ」
「でも、肩書は『代表取締役』じゃないですか」
「肩書はね。仕事としては、うちの会社が受けきれなかった仕事を引き受けるだけよ。メインにするのは女性を扱ったキャンペーンばかりだから、女性社長の方がウケがいいしね」
水鳥はうちの傘下に当たる人材会社の社長就任が決まった。
他に任せる人材がいないことと、扱うイベントが柴田財閥、南ホールディングス関連絡みのイベント事業ということもあり、適任者として推薦したのは俺だ。