だから私は雨の日が好き。【花の章】
水鳥とは、俺の取締役昇格と共に社内に関係を公表し、そのまま結婚した。
まぁ、社長以下取締役は周知の事実として喜んでくれたが、部下たちは『信じられない』という表情を全面に表してくれた。
俺達は頑なに隠すつもりなどなかったが、どういう訳か自然と隠ぺいされてきたようで、彼女が何か工作をしていたのかもと想像して少しだけゾッとした。
ともあれ、面白フェイスで俺たちの結婚を喜んでくれた部下達に報告をした直後、俺はその部署を離れることとなった。
夫婦が一緒の部署にいられるはずもなく、俺は企画営業部の部長を兼任したまま社長付きの営業部門統轄を任された。
実質権限としては取締役の中で一番低くとも、仕事内容は社長から直接指示をもらうという何とも厄介な役職で、企画営業部の仕事にまで目が届かないような仕事だった。
嬉しいことに、部下が良く育っていたうちの部署の仕事ぶりは以前と変わらず、それ以上に成長を見せてくれていた。
ただ一つ。
結婚式は内輪でやるつもりだったのに、彼女の父親がそんなことを許してくれるはずもなく。
仕方なしに取締役にだけ声を掛けたところ、御堂会長に『部署の皆様もお呼びしないさい』と言われてしまったので企画営業部全員を出席させるハメになった。
出席した面々は会長と仕事をしたことがある人間がほとんどで、彼女の家のこと、俺の両親のことを知ることとなった。
一様に唖然とする表情を見て、これはこれで面白いものが見れたな、と二人で笑った。
俺達二人の結婚を心から喜んでくれた部下達と、祖父を囲んで意気投合している両親達を見て、『こんなに嬉しいことはない』と心の底から想った。