だから私は雨の日が好き。【花の章】
「水鳥嬢、そろそろ行くぞ」
「あ、はい。それじゃあ櫻井君、後はお願い。多分、最終出勤日までほとんど会社に来れないと思うから」
「了解しました。でも最終出勤日の翌日には、水鳥さんの会社の方とうちで打ち合わせですよ?」
「わかってるわ。だからこそ、よろしくお願いね。企画営業部あっての我が社ですから」
そう言って、女社長の顔をした彼女を連れて会社を出る。
新しい会社の内装工事が今日終了し、インテリア配置と新スタッフの顔合わせなのだということで送って行くことにした。
社長には何故か『有給申請が出てるぞ』と言われ(俺は取締役なので有休なんていうものはない)、暗に『彼女を送って行け』という指示が出ていた。
俺の車の助手席で少し緊張した面持ちの彼女は、十年前とは比べ物にならないくらい綺麗になった。
それは外見だけの話ではなく。
自分に対する自信が、彼女をより輝かせているのだ、と俺は知っていた。
「カズ・・・、寂しくなるわね。シグだけじゃなくて私までいなくなっちゃって」
「ホントだな。可愛い女の子がいなくなるのは寂しいもんだ」
「・・・女の子扱いはしないで」
「俺にとって、水鳥はずっと女の子でいいさ」
むくれているのに照れているその横顔を感じながら、街の喧騒をすり抜けて行く。
水鳥の前に企画営業部課長の嫁が産休・育休に入り、夫婦たっての希望で小学校に上がるまでは嫁が復帰をしないことになっている。
その子と一緒に働くのが好きだった水鳥は、最後に一緒にいられなかったことを少しだけ後悔していた。
しかし『また一緒に働けますね』と嬉しそうに言うその子の姿を見て、自分の選んだ道が間違っていない、と確認出来たと言っていた。
打ち合わせまでまだ時間があるので、俺達は街並みが一望できる高台を目指していた。