だから私は雨の日が好き。【花の章】
「森川、時雨に惚れてるんだろう?」
ポーカーフェイスで隠せる自信があった。
だが、同じようにポーカーフェイスのこの人の前では、隠しようがない気もしていた。
同じ女。
時雨が記号化されて別の生き物のように感じる。
その無機質さが、やけに虚しかった。
「お前は、このままでいいのかよ?」
櫻井さんの言葉は挑発だった。
このままで?
いいわけないに決まっているのに。
これ以上、俺にどうすることが出来るだろう。
苦しんで、悩んで、傷付いて。
そうして選んだ時雨の答えを、応援する以外に何が出来る?
「時雨の幸せが、一番ですから」
今更、時雨を惑わすようなことはしたくなかった。
強がりでもいい。
俺も、時雨を見守ることが出来れば。
それが、時雨を大切にした証になればいい。
「俺といても、幸せになれる保障はどこにもないぞ?」
「それでも、時雨が選んだものを大切にしてやりたいんですよ」
そう言った俺に向かって、櫻井さんは笑った。
やっぱりな、という声が聴こえてきそうな顔で。
「お前は、いつも損な役回りだな」
「そんなことないですよ」
内心では『その通りだな』と思って、俺も笑った。
これ以上自嘲的な笑いにならないように、出来るだけ柔らかく笑って見せた。
櫻井さんは、そんな俺をじっと見つめていた。