だから私は雨の日が好き。【花の章】
「森川、今日ちょっと時間あるか?」
「はい。大丈夫です」
「打ち合わせしたいんだけど、資料が家なんだよ。来れるか?」
「問題ありません。明日は休みですし」
「悪いな」
この人は。
家に帰ってまで仕事をするのかよ。
少しは休んで欲しいと思ったところで、俺が成長しない限りは負担をかけ続けるのだろうな、と思う。
「明日現場もないのでし、泊まってもいいですか?」
「あぁ、そのつもりだ。じゃあ、戻ったら最後の案件同行しろよ」
そう言って、ジャケットを羽織って颯爽とオフィスを後にする。
厭味なくらい様になるその姿に、あこがれ続けているのは自分自身だ。
櫻井圭都(サクライケイト)は、自分に厳しく人にも厳しく。
その分、この人の下にいれば必ず仕事が出来るようになる。
社内でも一目置かれる人材であり、業界内でも名を轟かせている人物でもある。
うちの会社は中小の広告代理店だが、業務の幅はとてつもなく広い。
今任されている仕事は、大手海外ブランドの新商品の香水のCMだ。
どうしてこんなツテがあるのかと疑問に思うこともあるが、今は仕事をこなしていくことで精いっぱいだった。
自分でもかなり大口のクライアントを抱えているにも関わらず、後輩を育てる余裕のある人。
そして、俺たち後輩の一挙手一投足をしっかりと見ている人。
失敗した時ほど褒めてくれる。
『次のために今が必要なんだ』と。
こんな人に、なりたいと思った。