だから私は雨の日が好き。【花の章】
本音
バレンタイン商戦の獲得が一段落して、ホワイトデー商戦のプレゼンが始まった。
外に打ち合わせに出ることが多く、社内にいる時間がどんどん少なくなっていた。
あれから一ヶ月。
俺はどうすることも出来ないでいた。
会社に戻ると、水鳥さんが一人でオフィスにいた。
時雨も水鳥さんも外出の予定はないはずなのに。
「お疲れ様です。時雨、外出ですか?」
「お疲れ様。今は、保管庫に資料片付けに行ってるわ」
そう言って、にっこりと笑っていた。
その目線を受けながら席に着く。
いつもよりも柔らかい雰囲気の水鳥さんに、少し不思議な顔をしてみせた。
「どうかしましたか?俺、何か変なこと言いましたか?」
「ううん。ただ、シグのことが気になるのね、と思って」
水鳥さんは、きっと俺の気持ちなんてお見通しなんだろうな、と思う。
上手く隠すことは得意な方だが、最近は限界を感じている。
『諦め』と『焦燥』が、交互に渦巻いている。
「森川君は、シグと櫻井君のこと賛成?」
パソコンに向かいながら、まるで興味がないように問いかけられる言葉。
その言葉の裏にある問いかけを探ることが出来なくて、少しだけ黙ってしまった。
俺の沈黙を『返答無し』と受け取ったのか、水鳥さんが笑う気配がした。
「シグは、森川君のその気持ちに全く気が付いていないのね」
水鳥さんはただの報告のように、それを言った。