だから私は雨の日が好き。【花の章】
時雨が俺の気持ちに気が付かないのは、当たり前のことだ。
前の彼女と別れてから、ずっとそれを引きずるフリを続けてきたのだから。
そうすることで、本当は時雨に対して抱いている感情も、時雨には向いていないかのように伝えることが出来た。
「相手を思いやるのは簡単だけれど、自分を殺していい、というわけでもないのよ」
水鳥さんのいう言葉は、確かに正しいのかもしれない。
けれど、今の時雨にとって俺の感情はきっと負担でしかないのだろう。
自分の考えを読まれているようで居心地が悪かったが、水鳥さん相手では敵うはずもなかった。
それでも、少しでも平常心を装いながらパソコンへと向かった。
「そんなんじゃ、ないですよ。ただ、臆病なだけで」
口からついて出た言葉に驚いたのは、自分自身だった。
水鳥さんの問いかけに無意識に本音がこぼれる。
俺の中にある気持ちは、今尚くすぶったまま、熱く焼け焦げている。
「あら、随分素直ね」
「いえ・・・そんなんじゃ・・・」
「シグ、次の土曜日に引越しですって」
次の・・・土曜日。
水鳥さんの言葉に、自分の意識が飛ぶんじゃないかと思った。
目の前がチカチカと揺れている気がする。
もう動揺を表さずにいることなど、出来るはずがなかった。