だから私は雨の日が好き。【花の章】
あまりにも唐突な水鳥さんの言葉。
開いたパソコンの画面は、俺の心と同じようにフリーズしていた。
時雨が?
今週の土曜日?
もう、どうすることも出来ないのか?
俺の胸のこの気持ちは、もう行き場を失っているのに。
まだ、これ以上。
火傷の痕を残してしまうのか?
「シグは、保管庫よ」
水鳥さんの声が、まるで悪魔の囁きのように聴こえた。
その声が、今日ほど意地の悪い声に聴こえることは、この先ないのだろうと思った。
何を考えたわけでもない。
俺はパソコンの画面もそのままに、机から立ち上がった。
出来るだけ静かに立ち上がったつもりだったのに、水鳥さんは顔を上げて俺を見た。
心配そうにも、嬉しそうにも見える水鳥さんの表情。
その目の中の真意はわからないが、この先確かめることもないのだろう。
オフィスを飛び出した俺の足は、勝手に保管庫へと向かっていた。
保管庫の扉の中でカタンという音を聞いた。
中に人がいる気配がする。
それが時雨であることを、俺は知っている。
時雨の気配を感じながら、今顔を合わせて何を言えばいいのか。
それが一番わからなかった。
ずっと隠してきたことを今更伝えるには、あまりにも遅すぎた。
けれど、痛すぎるこの胸を何とかしてくれるのは、時雨しかいないこともわかっていた。
俺の目を真っ直ぐ見つめる時雨。
身長が低いはずなのに。
俺よりもずっと華奢なはずなのに。
いつも物凄い存在感を持って、俺の前に立っている。
その纏う空気が、俺の胸を焦がしてやまないんだ。
一つ大きく息を吐く。
後は顔を見て決めよう、と。
そう決めて保管庫のドアを開けた。