だから私は雨の日が好き。【花の章】
本当は触れたくて仕方がないんだ。
時折冗談のように触れる時雨の柔さが、俺の手に残って仕方がないんだ。
春。
手を掴んだ。
火照った俺の手は、時雨の体温の低い体を掴まえた。
夏。
頭を抱えて抱き寄せた。
目に溜まる涙を拭った指は、今もその感覚が鮮明なままだ。
秋。
距離が離れて。
電話越しの声が、耳に残ってる。
この一年で色々なことが変わっている。
時雨が、変わっていく。
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『たった一人がいいればいいよ』
『なんだ、それ?』
『だって、そのたった一人以外は、自分の気持ちを埋めてくれないもの』
『それでも駄目だ。もういい加減、適当に遊ぶのはやめろ』
『わかったよ。その代わり、お酒には付き合いなさいよ』
『それでやめるなら、いつでも付き合ってやるよ』
『わかった。・・・ありがとね、森川』
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『たった一人がいればいい』と時雨は言った。
今ならその気持ちが、痛いほど分かる。
こんなにもかけがえがないのだと知った。
お前の言う通りだな、時雨。
本当に『たった一人以外は、自分の気持ちを埋めてくれない』と思い知ったんだ。