だから私は雨の日が好き。【花の章】
力が入らない時雨の身体。
突然のことに頭がついていかないのだ、と理解する。
抵抗されないことが、俺にとって唯一の救いだった。
背中に当てた手のひらが時雨の鼓動を確かめる。
胸に当たる時雨の顔が、俺の鼓動を確かめる。
包んだ腕の力が、時雨を離したくないと言っている。
伝えられなかったけれど。
気付いて欲しくなんて、なかったけれど。
――――ずっと、こうしたかったんだ――――
「お前は相変わらず動揺しないな」
なんの反応も返してくれない時雨を恨めしく思う半面、時雨らしいなと、なんだか笑えてきた。
俺の声を、どんな風に聞いている?
抱き締めているこの華奢な身体で、俺の想いを受け止めて欲しくてたまらなかった。
「少しくらい、驚けよ」
ぴくりとも動かない時雨を、少しでも強く抱き締めたかった。
いっそ。
俺の気持ちがそのまま届けば、何か変えることが出来るのだろうか。
例えば今、俺が時雨を好きだと伝えても、それはなんの意味もないことなのだと想う。
今まで伝える努力を怠った自分自身が、一番悔しかった。
それを、櫻井さんは知っていたんだ、と思った。
「森川、どうしたの?何か、あったの?」
時雨の声が詰まる。
俺の腕の力が強すぎるのか。
それとも、俺に対する非難なのか。
泣きそうに聴こえる時雨の声に、俺は幻想を抱きそうになる。
腕に力を込めて何とか押し込めることで、精一杯だった。