だから私は雨の日が好き。【花の章】
年末年始に向けての大型プロジェクトを任された時、俺は嬉しくてたまらなかった。
元々感情が表に出にくいこともあって、その嬉しさはほとんど伝わらなかった。
櫻井さんにも『お前は反応が薄いな』と言われたくらいだ。
唯一気付いた人物、それは俺の胸をとても震わせる人だった。
残酷な純粋さを持っている、どこまでも無垢な同僚。
「森川、おめでとう!なんだか、いつもより嬉しそうだね?」
山本時雨(ヤマモトシグレ)、その人。
その声が俺の中身を見抜く度。
一番大事なところまで覗かれてしまいそうで、ぎくり、とする。
「あぁ、ありがとう」
「みんな、どうしてわかんないんだろうね」
「何がだ?」
「森川が嬉しそうにしてること」
「さぁな。むしろ、時雨は何で分かるんだ?」
「どうして、って言われても困るけど。思いつくのは、森川との距離が一番近いことくらいかな」
そんなことを簡単に言ってしまえるほど、時雨は無垢であり、残酷だ。
冬。
寒くなると心が無防備になる。
隠し続けていた俺の気持ちが、冬の寒さで凍ってしまえばいいのに、と想う。
俺の二年間の片想い。
山本時雨への、想い。
自分の気持ちが溶け出して、苦しくなることがないように。
逃げ出せてしまえたら。
そんな風に想う。