だから私は雨の日が好き。【花の章】
「・・・あったよ。だから慰めてくれよ」
頼むから。
どうにかしてくれよ。
縋るように、祈るように。
こんなにも時雨でいっぱいで。
こんなにも時雨が好きで。
お前を表す言葉がどうして一つじゃないのか、と想う。
こんなにも傍にいて、こんなにも時雨を感じているのに。
俺の背中に手を当てることも、口に出して何かを伝えてくれることもしてくれない。
そんな時雨に、絶望的なまでに打ちひしがれていた。
時雨は知っている。
同情で人を救えないことを。
自分の感情を真っ直ぐに届けた時にだけ、相手に伝わることを。
近付いた分だけ、時雨がわからなくなる。
触れた分だけ、時雨を感じることが出来なくなる。
この距離の苦しさを思い知るばかりで。
俺の胸の中は、消化することの出来ない想いで溢れるばかりだった。
ただ俺の腕に抱き締められたまま。
時雨が、冷静な感情で俺を助けてくれようとしている。
そのことだけは、紛れもなく真実だった。
変わることを受け入れることは出来なくても。
現実を受け入れて、誰かを助けようとする時雨。
俺は、そんな時雨だからこそ、こんなにも好きになったのだ。
時雨は、櫻井さんと良く似ている。
『人の感情に気付ける』という点において。
けれど絶対的な違いがある。
櫻井さんは『変わることに慣れている』人だ。
そして時雨は『変わることを恐れている』ということだ。
現実を受け止める力はあるのに、変化を受け止めることをしてくれないなんて。
お前はどこまでも、非道い女だ。