だから私は雨の日が好き。【花の章】
「・・・私のこと、好きでいてくれたの?」
俺は身体が震えた。
気付かれて、しまったのだろうか。
時雨の声は、真っ直ぐに伸びて迷いなんてない声だった。
途端に自分の体温が下がった気がした。
そんなはずはなくても。
そう感じた。
腕の中から逃げようとしない時雨を、俺はどう想ったらいいのだろう。
このままでは、俺は期待をしてしまう。
自分の気持ちを押し付けてしまいそうになる。
時雨の体温と俺の体温が混ざる。
この部屋で二人になって、まだ十分も経っていない。
それなのに、物凄く長い間こうしているような気がしていた。
一秒が一時間に。
一分が一日に。
時雨の前で、時間など無意味なのだと知った。
このまま時間が止まればいい、と。
そう、想った。
「俺が『好きだ』って言ったら、櫻井さんとの間で揺れてくれるのかよ」
もう、これ以外の言葉は出てこなかった。
こんな言葉、『好きだ』と言っているのと変わらないと想った。
面と向かって、正直な気持ちを言うこと。
いつもの相談のような話なら、何だって正直に言ってやる。
でも、時雨に対する気持ちだけは、ずっと嘘をついてきた。
時雨が俺のことを『正直』だと言う度に、重ねてきた嘘の重さを感じる。
傍に、いたかったんだ。
ただ、それだけなんだ。
時雨が吐き出す不安や葛藤を。
傍で聞いてやることが出来るのは、俺だけだったんだ。
一番近くで、見ていた。
仕事で悩むことも。
恋愛に真剣になれないところも。
櫻井さんに揺れるのも。
一人で抱え込んでいくところも。
ずっと、見てた。