だから私は雨の日が好き。【花の章】
「もし、そうだとしたら。どんなことをしてでも、櫻井さんと一緒に住んで欲しくないだろうな」
本当は、今でもそう想ってる。
どうしてたった一人が、俺ではなかったのか、と。
でも、お前の背中を押すと、決めたんだ。
だから、好きじゃない『フリ』をさせてくれ。
此処からさらって行きたい衝動を、俺が抑えられるうちに。
目線を合わせることは出来ず、背中を向けたままぐっと堪える。
手に爪が食い込むのも厭わずに強い力で握り締めた。
その痛みが、俺を正気でいさせてくれる気がした。
「残念か?俺の気持ち」
櫻井さんの顔を思い浮かべる。
時雨をからかう時にいつ浮かべる、あの意地の悪い顔。
「安心したに決まってるでしょ!からかわないでよ」
その言葉に笑った。
口から笑い声が出ないように。
俺の背中から『もう!』と嬉しそうな声が聴こえた。
目頭が熱い。
「ねぇ、森川」
「・・・なんだ?」
「まだ後悔してる?前の、こと」
俺の心臓が、急に大きな音を立て始めた。
そうか。
時雨は、俺がまだ前のことを引きずってると想ってるんだったな。
それなら、もう一度だけ。
――――時雨への気持ちを口にしても許されるだろうか――――
足が止まる。
目が熱い。
上を向いて、それをなんとか押し込めた。