だから私は雨の日が好き。【花の章】
この部屋の天井は低い。
上を見上げたら、そんな関係の無いことばかりが頭を巡った。
例えば、俺が女だったら。
時雨の背中を迷うことなく押せただろう。
櫻井さんほどの人は、世の中にほんの一握りしかいない。
例えば、俺が時雨の家族なら。
やっとめぐり逢えた、もう一人の『たった一人』を見つけたことを。
一緒に喜んで上げられるだろう。
例えば、俺が『櫻井圭都』だったなら。
何があっても離したりしないだろう。
唯一無二の存在に、なれる努力をするだろう。
――――けれど、俺は俺でしかないんだ――――
「簡単には、割り切れないもんだな」
涙が俺の視界の邪魔をする。
震える声が、真っ直ぐには伸びてくれない。
たまらないんだ。
好きで、たまらないんだ。
割り切るなんて、出来るのか?
先のことはわからないけれど、今は時雨でいっぱいなんだ。
誰かのものでもまだ好きで、ずっと傍にいたいと想うんだ。
お前を支えるのが、俺の手であればいい。
お前を守るのが、俺の存在であればいい。
お前の傍にいるのが、俺であればいい。
こんなにも、好きになるなんて。
お前が、離れていくのが怖い。
お前が、誰かのものになるなんて。
もう、どうすることも出来ないなんて。
割り切れないんだよ。
時雨。