だから私は雨の日が好き。【花の章】
「そう」
時雨の言葉は、そっと響いてすぐに消えた。
その儚い一瞬がずっと続くことを望んだけれど、その願いが届くわけはなかった。
「後悔するような選択は、絶対にするなよ」
俺は。
後悔だらけだったから。
せめて時雨には。
後悔をしないでいて欲しい。
これ以上、傷付かないように、と。
そう願わずにはいられない。
「うん。わかってる。ちゃんと自分で選んでいくよ」
「・・・そうか」
「森川は優しいから。私が後悔したら、森川も一緒に辛くなるでしょう?」
「・・・」
「そんなの嫌だから。絶対に、しないよ」
「・・・あぁ」
涙なんか、流すものか。
俺はそんなに弱くはない。
悲しさだけじゃない。
悔しさと切なさ。
全部、飲み込めばいい。
時雨には、こんな顔を見せられない。
そっと扉に手をかけた。
静かな音を立てて、目の前の扉が開く。
そのまま静かに保管庫から抜け出した。
非道く切ない空気を、扉を閉めて押し込めてしまっただろう。
時雨が一人で感じている空気は、俺が放ってしまった。
そのまま早足で医務室へ向かう。
今だけは、逃げ出したくてたまらなかった。