だから私は雨の日が好き。【花の章】
いつだったか。
時雨に言われたことがある。
『寝言?届いてくれよ、って。苦しそうだった』
それは、時雨に向けた言葉。
隠しているのに『届いてくれ』だなんて。
非道く矛盾している。
笑えるな。
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医務室に駆け込んで鍵をかけた。
ドアの前にしゃがみこむ。
大きく息を吐いて、呼吸を落ち着けた。
結局俺は臆病で、時雨に気持ちを伝えることさえ出来なかった。
三年前。
初めて出逢った。
なんて大人びた顔をする人だろう、と想った。
凛とした空気。
親しみやすい笑顔。
仕事に対する真面目さ。
同年代の女の人で、こんなにも惹かれる何かを持っている人は初めてだった。
二年前。
もう限界になっていた前の彼女との関係を、親身になって聞いてくれた。
その時に想った。
時雨なら。
きっと俺の気持ちをわかってくれる、と。
わかって欲しい、と。
俺の二年間の片思いは、相手に伝えることさえ出来ずに終わった。
高校生じゃあるまいし。
なんて冴えない恋愛を。
そっと、天井を見上げた。