だから私は雨の日が好き。【花の章】
あの香りを忘れることは、一生ないだろう。
あのぬくもりを忘れることは、一生ないだろう。
あの身体のカタチを忘れることは、一生ないだろう。
自分で企画した、香水のCMの映像が頭から離れない。
スノードロップ。
涙色の香水。
そのCM作成時のコピーライターの言葉が、俺の中に染み渡っていく。
胸が詰まるようだった。
「お前が選んだ答えは、お前そのものだな」
『俺そのもの』。
そうであれば、いい。
それを優しさと呼んで欲しい。
諦めは、再生に。
悲しみは、喜びに。
苦しみは、生きる力に。
静かに遠ざかる足音を聴きながら、俺は天井を見上げ続けていた。
胸にある名前が焼け付いているけれど、きっと大丈夫。
見守ることも、優しさだ。
少しだけ目を瞑る。
一粒だけ、涙が落ちた。