だから私は雨の日が好き。【花の章】
「森川、何かあるの?」
時雨が不思議そうな顔をして俺に向かって問いかける。
顔を上げて見るその顔は、前より少し柔らかくなった気がする。
仕事の効率も、作業内容も変わらないのに、その纏う空気だけが変化していた。
そんな些細な変化に気付くことで、自分の感情がより鮮明になっていく気がした。
「今日は櫻井さんと打ち合わせだ。イベント当日は、もうすぐだからな」
「そうなんだ。打ち合わせってことは、会社に残ってするの?」
「いや。この後、櫻井さんに同行する案件があるから、その後お邪魔する」
「え?打ち合わせって、自宅なの?」
「らしいな」
「もう。二人そろって仕事バカなんだから」
「いいんだよ。楽しんでやってるからな」
任された仕事が形になっていく。
それが実現される日は、いつもワクワクしてたまらない。
その日を素晴らい物にするために、綿密な打ち合わせを重ねていかなくてはいけない。
当日まではあと二週間。
今までよりも櫻井さんと一緒の現場は減った。
それが信頼であることが、とても嬉しかった。