だから私は雨の日が好き。【花の章】





「亜季さんっ!今日、暇ですか?」




可愛らしい後輩が、私の席に資料を持ってくるついでに声を掛けてくる。

男受けしそうな外見をしている彼女は、私にとても懐いていた。


秘書課は女所帯なので『ギスギスしてそう』などと言われるが、うちの会社はそんなことがない。

むしろ、仲が良すぎて驚かれることの方が多い。

取締役の数だけ秘書がいるので、うちの会社は五人の秘書がいる。

その全員をまとめるのが私の仕事だ。




杉本 亜季(スギモト アキ)、三十三歳。

この会社に入社して十年が経つ。

秘書課に配属されて十年。

先日、入社当初からお世話になっていた先輩が寿退社してしまったので、必然的にチーフを務めている。


部下・・・という呼び方があまり好きではないので、後輩と呼んでいるけれど。

後輩たちは、今までずっと一緒に働いていたからこそ、チーフが私に変わることを快諾してくれた。


先輩と一緒に社長秘書を担当していたが、現在は一人で担当を務めている。

その他、取締役のスケジュール確認やら、後輩の指導やらと。

仕事は山のように降ってくる。


この仕事の辛いところは、仕事を自分のペースで出来ないことかもしれない。

それでも、私はこの仕事が天職なのだろう。

相手のスケジュールを把握した上で先読みしていくという仕事は、嫌いなものではなかった。




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