だから私は雨の日が好き。【花の章】
三月も半ばに入った。
雪解け間近なはずなのに、街中にはまだ沢山の雪が残っていた。
綺麗な白色ではなく土の色を含んでくすんだ雪たち。
溶けてなくなることも、綺麗なままでいることも出来ない雪は、まるで自分のようだと思った。
二ヶ月前。
私は生まれて初めて『失恋』をした。
付き合っていたわけでもない。
私達の間にあった感情が、どんなものかも説明できない。
ただ身体を重ねるだけの関係が特別だと想っていたのは、私だけだったのだと知った。
いや、本当は知っていた。
自分一人が追いかけているのだと思い知り、それを認めたくなかっただけなのだ。
抱き合っていれば『いつか』私の大切さに気付いてくれる、と。
傍にいれば『いつか』私だけを見てくれるのだ、と。
好きだと伝え続ければ『いつか』想いが届くはず、と。
けれど、それは叶わなかった。
七年も一緒にいたのに、あの男は私のものになることはなかった。
優しい言葉も、強い腕の力も。
泣きたくなるほど切ない背中も、名前を呼ぶその声も。
何一つ、私のものではないのだと思い知らされたのだ。
今まで付き合った男たちは、全員向こうからアプローチをされた人だった。
正直、モテる自覚はあったので自分からアプローチをする機会は皆無で。
それは、自分から誰かを好きになることなど無かったということだったのだと知った。
そして気付いた。
私にとって『初恋』だったのだ、と。
三十三年間、いかに傲慢に恋愛をしてきたのかと自分が恥ずかしくなった。