だから私は雨の日が好き。【花の章】





「あっ!このビルの中なんで。ご案内しますね」




案内された店内はとても落ち着いた雰囲気だった。

流れる音楽の音量は大きいものの、うるさいと感じることはなかった。

入口を抜けると、カウンターと奥のボックスへ続く小さな階段。

少し暗い店内も雰囲気の良さという風に見えるバーだった。




「いらっしゃいませ」


「あの、予約をしてました高坂(コウサカ)と申しますが・・・」


「高坂様ですね。お待ちしておりました。奥へどうぞ」


「ありがとうございます」




案内されたのは店の奥のボックス席。

並べられたおしぼりが十本あり私は首を傾げた。

みんなが奥のソファーに一列に腰掛けるのを見て、大きく溜息をついた。




「千景」


「・・・はい」


「合コンなら合コンだと。最初にちゃんと言いなさい」


「だって・・・、亜季さんと一緒に飲みたいですけど、合コンって言ったら来てくれないじゃないですか」


「そりゃそうよ。そんな気分じゃないの」


「わかってます!でも、第一の部長に『若いヤツらが秘書室のみんなと飲みたがってるぞ』ってゴリ押しされて・・・」




なるほど。

第一の部長は取締役なのだ。

そして、千景の上司だ。

千景は第一の営業とクリエイターを統括する部長の秘書をしている。




「部長を使ってまで秘書室と飲みたいなんて、第一も必死ね」


「そりゃそうですよ!だって第一の営業には篠崎(シノザキ)さんいますもん。あの人、いまだに亜季さん狙いじゃないですか」





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