だから私は雨の日が好き。【花の章】
「え、じゃあ今日って、篠崎さん来るの?」
「十中八九、来ますね。だって部長に入れ知恵出来るのなんて、篠崎さん以外にいないですってば!」
一番壁側のソファーに腰掛け、上着を脱ぎながら千景に問いかけた。
返ってきた返答に、さっきよりも深く長い溜息が漏れた。
篠崎 健一(シノザキ ケンイチ)、三十五歳。
有能な社員で営業成績も常にトップクラス。
部内ではかなり若手の課長なのだ。
そこそこのルックスとそこそこの身長、女子には特別優しい性格で社内では人気がある。
ただし、実態は違う。
女癖が悪く泣かされた女性社員は山ほどいる。
それもドロ沼にならないような別れ方、付き合い方が出来るほどの遊び人だ。
手を付けるのは自分よりも若い女のみ。
結婚をする気も付き合う気もないくせに、甘い言葉を振りまく姿はもはや嫌悪の対象だ。
同類の匂いを感じなくはないが。
生憎、私は社内で馬鹿なことをするほど浅はかではない。
「それが、篠崎さんってば。ここ最近、全く女の気配がないらしいんです」
「あ、それ!私も聞いた。何か飲み会に誘っても断るとか!」
「『アノ』篠崎さんが!?なんで?」
篠崎の話なんてうんざりな私は、自分の鞄の中から煙草を探していた。
急に静かになり視線を感じて目を上げると、後輩たち全員の視線が私に集まっていた。
「・・・やっぱり、亜季さんは本命だったんですね」
「え?」
訳が分からないまま、とりあえず見つけ出した煙草に火を付けることにした。