だから私は雨の日が好き。【花の章】
「どうしたの?みんなで見つめちゃって――――」
「お待たせしました」
煙草の煙を吐き出すと、そこには噂の篠崎がいた。
にこにこと愛想の良い笑顔を張り付けて、営業らしい風貌で現れる男。
見た目だけで言えば文句のつけようがない。
優しそうで、嫌味がなくて。
さすが我が社のトップセールス常連男。
隙がない。
――――これだから、営業の男は信用ならない――――
そんなことを顔に出すほど若くもなく、煙草を消して即座に立ち上がった。
仕事上の習性とは恐ろしいもので。
上司が立ち上がると身体が動いてしまうのは秘書の条件反射みたいなものだ。
全員が立ち上がり、男性営業を迎える。
合コンとは言えない仰々しさに、疲れる飲み会になることを予感した。
「とんでもありません。私達も今来たばかりですから」
「ははっ。なんだか仰々しいね。今は仕事中じゃないんだし、気楽に座っててよ」
「いいえ。こんな風にお食事する機会を頂けて、光栄ですもの。ほんのお礼ですわ」
「それなら、二人きりでと誘った時にも応えて欲しいものだね」
「社交辞令と心得てますので」
オトす気満々の男と、オトされる気など更々ない女のやり取り。
周りの後輩や部下たちはたまったものではないだろう。
愛想笑いのまま席に着く。
後輩たちをこの冷戦に巻き込むわけにはいかない、と。
篠崎を目の前に座らせた。
長い夜が始まる。
『今日でハッキリさせてやる』と私も篠崎も考えているのが分かった。
受けて立ってやろうじゃないの。