だから私は雨の日が好き。【花の章】





ただ一つ。

篠崎の表情は本当に読めない。


言葉に出てくるものが本心だと分かるのに。

張り付けられた笑顔が剥がれないのは気になった。

このアンバランスな男を、心のどこかで『やはり信用ならない』と思っているのは、その点だった。




「昔の癖が中々抜けなくてね。男性社員には、かなり厳しく当たっていたと思うよ」


「伺ったことがあります。篠崎さんは『容赦がない』と」


「うん、自分でもそう思う。だから男性社員からは敬遠されていたんだ。その分、女性社員にはめちゃくちゃ優しくしてたけどね」


「はぁ」




普段厳しいと噂の人が、自分には優しい。

年端もいかない女性社員が惚れてしまうことに、無理はないと思った。




「僕の噂は、知ってるかな?」


「社内の大抵のことは、存じ上げております」


「やたらと他人行儀だね。まぁ、その噂を否定するつもりはないよ」




『女遊びをしてました』と。

こうまで真っ直ぐ肯定されると、逆に踏み込みづらくなってしまう。

駆け引きに慣れている営業と会話をするのは、これだから骨が折れる。




「それは、関係があった、と。認めているようなものですわ」


「うん、認めよう」


「・・・」


「無言で睨まれるのは、好きじゃないんだけどね」




呆れてものが言えない。

人の良さそうな笑顔を張り付けておいて、『自分は遊んでました』宣言をされた。

こんなことは、生まれて初めてだった




< 68 / 295 >

この作品をシェア

pagetop