だから私は雨の日が好き。【花の章】
ただ一つ。
篠崎の表情は本当に読めない。
言葉に出てくるものが本心だと分かるのに。
張り付けられた笑顔が剥がれないのは気になった。
このアンバランスな男を、心のどこかで『やはり信用ならない』と思っているのは、その点だった。
「昔の癖が中々抜けなくてね。男性社員には、かなり厳しく当たっていたと思うよ」
「伺ったことがあります。篠崎さんは『容赦がない』と」
「うん、自分でもそう思う。だから男性社員からは敬遠されていたんだ。その分、女性社員にはめちゃくちゃ優しくしてたけどね」
「はぁ」
普段厳しいと噂の人が、自分には優しい。
年端もいかない女性社員が惚れてしまうことに、無理はないと思った。
「僕の噂は、知ってるかな?」
「社内の大抵のことは、存じ上げております」
「やたらと他人行儀だね。まぁ、その噂を否定するつもりはないよ」
『女遊びをしてました』と。
こうまで真っ直ぐ肯定されると、逆に踏み込みづらくなってしまう。
駆け引きに慣れている営業と会話をするのは、これだから骨が折れる。
「それは、関係があった、と。認めているようなものですわ」
「うん、認めよう」
「・・・」
「無言で睨まれるのは、好きじゃないんだけどね」
呆れてものが言えない。
人の良さそうな笑顔を張り付けておいて、『自分は遊んでました』宣言をされた。
こんなことは、生まれて初めてだった