だから私は雨の日が好き。【花の章】
「さて、話を戻そうか」
「え?あぁ、はい。・・・構いませんが」
「物事には順序がある。筋道を間違えると、真意が相手に伝わらない」
それを貴方が言いますか、と思っても、やっぱり私は表情に出すことをしなかった。
自分の方が余程、本心が見えない人間なのだと実感していた。
「僕はね、自分という人間の本質を見られるのが嫌いでね」
「はい」
「それを隠すことで、相手に良く想われる方法を心得ているんだ」
「それは、何となくわかります」
「うん、そうだろう。君は、きっと分かるはずだ」
自分の本質を隠すのは、相手に合わせる必要があるから。
自分を出してしまうと仕事にならないから。
私達は、そういう仕事をしている。
自分の感情を殺し、相手の求める自分で居続けること。
それなのに『意見がない』ことは許されず、相手の望む回答と自立して動けることを求められている。
「自分の本質を隠す人間は、相手の求めることを読み取る才に長けている」
「相手の求めることを読み取る才・・・ですか?」
「そう。相手の望む立ち振る舞い、表情、声、言葉。それを与えられる。だから、僕はただ。それを彼女たちに与えただけだ」
「え・・・」
「確かに僕は『遊び人』なのかもしれない。けれど、それを『一瞬でもいいと彼女たちが望んだ』から、僕はそれを与えただけだ」
屁理屈だ、と突っぱねることは簡単だった。
しかし、それを私はしなかった。
篠崎の言葉が、痛い。