だから私は雨の日が好き。【花の章】
「櫻井さん、準備出来ました」
「お、了解。じゃあ出るか」
そう言って、二人で立ち上がる。
最後のアポは二人で担当している会社だ。
確か来春用の宣材がどうとか。
「じゃあ、森川と打ち合わせがあるので、最後のアポに二人で行って直帰します」
「わかりました。あんまり無理しないでくださいよ」
「大丈夫だ、これくらい」
「そうじゃなくて。森川を自宅まで連れまわすのは止めてください。スノードロップのイベントがもうすぐなのはわかりますけど」
「あー、そうだよな。今後は気を付ける」
「そうしてください。でも、頑張ってくださいね」
おう、と時雨に向かって櫻井さんが軽く振り向く。
その後、不意に時雨が俺を見る。
櫻井さんを見たすぐ後に、同じ瞳で。
「森川、無理しないようにね。今回は森川がメインなんだから。何かあったら手伝うから」
「大丈夫だ。十分助かってる」
それならいいけど、と、いつものココアを手に嬉しそうに笑っていた。
忙しい時期の中でも部署を和ませる時雨の表情。
優しく笑うその顔は、この忙しい部署において無くてはならないものだ、と思った。