だから私は雨の日が好き。【花の章】
「僕はね、杉本さん。一人の部下に教わったんだよ」
「何を、でしょうか?」
「正直になるということを」
篠崎は、さっきまでの張り付けた笑顔ではなかった。
初めて見る篠崎の『本当の』笑顔に、私は不覚にも『悪くない』と想ってしまった。
「『腹の中を見せてくれない方と、仕事をする気にはなりません』と言われたことがある」
「部下に、ですか?」
「あぁ。正確には、直属の部下ではない、と言っておこう」
そう言った篠崎は、少しだけ苦しそうな顔をしていた。
篠崎ほどの優秀な社員に向かって物怖じせずに発言出来る人。
そして、篠崎の本当の顔を見たいと思って暴けるほどの人。
きっと。
真っ直ぐで。
残酷なほどに正直な人。
――――――そうか――――――
思い浮かんだ人物の輪郭を打ち消すように、私は目の前のお酒と煙草に手を伸ばした。
少し温くなったレッドアイは私の心を落ち着けてくれる。
煙草に手をかけ篠崎を見ると、目線だけで『どうぞ』と返してくれた。
ライターで火を付ける。
自分の気持ちが落ち着いていくのが分かった。
「彼はね、僕の部下に言ったんだ。『お前たちだって、同じことを思ってるだろう』と」
「なんてことを・・・」
「うん、僕もそう思った。けれど、あいつらは頷いた。そして言ったんだ。『本当の篠崎さんと仕事がしたいです』って」