だから私は雨の日が好き。【花の章】
「それでも、真っ直ぐぶつからないと君の本心は見えないと踏んだから、僕もこうして見せているんだけどね」
「そんな風にしていただけるほど、価値のある女ではありませんよ?」
「それを世の中では『過小評価』と呼ぶ」
それこそ『過大評価』だと思って笑った。
仕事の顔を崩さずに笑う私を見て、篠崎は少しだけ眉間に皴を寄せたけれど。
私は気にも留めなかった。
ということは、やはりどう足掻いても篠崎に興味を持つことはない、ということだ。
「私の素顔が見たければ、その『直属の部下ではない』とおっしゃった方に、方法でも聞いてみてはいかがですか?」
「君は諦めが悪いね。彼はもう・・・」
「女は女々しいものです。ですからせめて、男性くらいは女々しくならないで頂きたですわ」
「言い換えれば諦めが悪い、ということだ。褒め言葉と取らせてもらうよ」
多分。
そんな風に考えられる篠崎が嫌いではない。
けれど。
この人に本心を曝け出せるほど、心を許せる自信はなかった。
かといって、一晩で終われるほど簡単に引き下がってくれる男ではないこともわかった。
――――やっぱり社内はリスクが高すぎる――――
適当に遊ぶなら、相手が私にベタ惚れで関係が近くない方がいい。
そんな結論を導き出すために篠崎を使ったことには申し訳ないが、私にとってはその程度の存在だった、という証明になった。