だから私は雨の日が好き。【花の章】
思念
「いらっしゃいませ!・・・って、亜季かよ」
「何よ。客には変わりないわよ。お客様!」
「わかったって。いいから座れよ、お前ズブ濡れじゃないか」
さっきの店から歩いて十分弱だったにも関わらず。
私は重たい雪のせいで、かなり濡れてしまっていた。
温かい店内に来ると雪は解けてしまい、少し滴ってしまうほどだった。
「雪、凄かったのよ。これだから春の雪は嫌い。ねぇ、タオルある?」
「へいへい。もう少し遠慮しろよな。ここはお前の家じゃねぇっての」
「悪かったわね。でも、身内には変わりないわ」
ここは兄が経営しているダイニングバーで、お店はかなり広め。
カウンターもフロアも広く、今日は週末ということもありお客様で賑わっていた。
私のお気に入りは入口に一番近いカウンターで、壁に押し付けられるような狭さが気に入っている。
「ほらよ。タオル使え」
「ありがと」
「んで?どーしたよ?また男ひっかけに来たのか?」
「違うわよ。人を『男漁りの常連』みたいに言うのは止めて。勝手に寄ってくるんだから」
「お前・・・。俺の店でトラブルだけは起こすなよ」
「言われなくても。そんなヘマしないわよ」
呆れたような顔をしながら、兄は接客に戻っていった。
その後ろ姿はオーナーでありバーテンダーである。
仕事をしている兄を好きだというのは、内緒にしている。