だから私は雨の日が好き。【花の章】
この店を利用する年齢層の幅はとても広い。
兄の店ということもあり気兼ねなく来れるので入り浸っていたら、自然に声を掛けられるようになっていた。
常連さんには可愛がられ、初めて来たお客さんにはナンパをされる。
周りに気付かれないようにそっと抜け出す瞬間が、悪いことをしているようで実は好きだったりする。
こういう店に来る男達は案外軽いもので。
一度きりであっても、数回であっても、いつも変わらぬ顔をしてくれる。
まぁ、兄にバレないようにと必死のヤツもいたりするけれど、それはそれでいい。
寂しさを埋めてくれるなら、なんだってよかった。
それはお互い様だから。
ほぼ満席の状態で、窓際のイイ席が空いているということは。
これから予約客でも来るんだろう。
何も言わずにレッドアイを用意してくれている兄に向って、私は目線を向けた。
「ねぇ、兄貴。これから予約客なんてくるの?」
「あぁ。なんでも同窓会の三次会だかで。来ても七、八人だとよ」
「ふーん。元気ねぇ、こんな時間から三次会なんて」
「お前も十分若いだろ?」
「嫌味にしか聞こえないわよ」
違いない、と笑って、目の前にレッドアイを置いてくれる。
私好みにすでにタバスコの入ったそれは、やっぱり冷たい方が美味しいと思った。
煙草に火を付けて一口吸い込んだ時、入口のドアが開いた。
冷たい風と共に背の高い団体が入って来て『予約してたんですが』と若者らしからぬ丁寧さで兄貴を呼んだ。
忙しそうにしてたので手を挙げて合図をし、代わりにテーブルまで案内することにした。