だから私は雨の日が好き。【花の章】
「お待たせし・・・えっ!?」
「あ、えぇと。・・・お疲れ様です」
「あ、ええ。お疲れ様です」
「あの、予約してました『森川』です」
予想だにしない人物の登場に、私は仕事の顔を取り戻すことが出来なかった。
目の前の背の高い人物を見上げていると、遠くから兄貴の呼ぶ声が聞こえた。
「亜季!窓際のテーブルだから、頼むな!」
あんまり頼まれたくない、というのが顔に出たのか、無表情なまま森川君が私を見つめている。
こんなにも上から見下ろされるのは居心地が悪い。
仕方なく案内しようとすると後ろから声を掛けられた。
「あの、杉本さん」
「え?あ、何?」
「席わかるので、大丈夫です。ありがとうございます」
「あ、ええ。でも案内するわ。ここ、兄の店だから」
「そうでしたか。すみません」
私の名前を知っていたことにも驚きだったが、こんなにも無表情な声であることも驚きだった。
静かな子だったので話したことはほどんどない。
イメージは暗くて大人しそう。
でも、企画営業部で営業をしてるくらいだから、イベントとかもこなしたりするんだろうと考えた。
けれど、全く想像できなくて訳が分からなくなった。
とりあえず席まで案内すると、とても丁寧に頭を下げられた。
同窓会と言っていたので同じ年齢なのだろうけれど、森川君はやたらと落ち着いた雰囲気だった。
周りの男の子は『綺麗ですね』『一緒にいかがですか』と声を掛けてきたが、それを制する姿はもはや保護者のようだった。