だから私は雨の日が好き。【花の章】
兄の店には三人の従業員がいる。
それでもお店が回らないなんて、繁盛しているなと感心してしまった。
「繁盛してるね、兄貴」
「まぁな。脱サラしてまで店を開いたんだ、繁盛してもらわないと困るって」
「どうせお客さんも証券時代のコネでしょ?」
「それも人脈だ」
兄は、証券会社の営業だった。
お金のためと割り切って仕事をしていた兄は、適当に仕事をしていたように見えてしっかりと人脈作りをしていた。
そんな兄への人望は厚く、お客さんは常連の人が新規の人を呼び込むというとても理想的な形で増えていった。
証券で働いていた兄はどこか荒んでいたが、今の兄はとても楽しそうにしている。
そんな姿を見て嬉しくなったのは言うまでもない。
「ほら、ぼさっとしてないでオーダー行ってこいよ」
「はいはい」
呼ばれたのは窓側の席の団体。
つまりは森川君のいる席ということだ。
仕事で使っている顔はこの店のカラーに合わないので、私は素のままの表情でオーダーに向かった。
テーブルに行くとさっきのビールはすっかりなくなっていて、勢いがあるなぁ、なんて感心してしまった。
周りの子達は随分平気そうな顔をしているが、森川君は少し赤い顔をしていた。
それでも楽しそうに話をしている姿は年齢なり。
二十七歳と言われて納得できるような気もした。