だから私は雨の日が好き。【花の章】
明日は土曜日。
金曜日の夜に二人で帰るのは久しぶりだった。
まぁ、もう一件アポは残ってるんだが。
みんなの声に挨拶を返しながら会社を後にする。
櫻井さんと二人であれこれと話をしながら歩くことは、とても嬉しいことだった。
前は肩を並べることすら出来ず、言われるがままに仕事をしていたのに。
今は同じ目線で同じものを見ることが出来る。
三年前。
どんなに追いかけても追いつくはずがないと思えるほど、遠い場所にいたこの人の背中。
あの時追いかけ続けた背中が、すぐ横にあるような気がした。
それは、仕事に対する自信も自分の積み上げてきた実績も、全てが糧になっている。
この人と仕事をしてきたからこそ、こんなに成長できたのだと知っていた。
「とりあえず仕事をさっさと終わらせようぜ」
「はい。宣材の件なので、すぐに話は終わるでしょう」
「じゃあその後は、酒飲みながら打ち合わせないか?今ある資料の分だけでも」
真面目なくせに『酒を飲みながら』なんてことを言う。
こういうところが櫻井さんのいいところだと思った。
二つ返事で同意して、まずは最後のアポの会社へ向かった。