だから私は雨の日が好き。【花の章】
「お待たせしました。ご注文伺います」
「あ・・・」
「あーっ!さっきのお姉さんじゃないですか!?」
「あ、ホントだ!いや、めっちゃ美人ですよね?」
「輝(ヒカル)、知り合いなのか?羨ましいなぁ」
「ん?あぁ、ええと――――」
「ありがとうございます。皆さん楽しそうですね。森川さんとは以前、お会いしたことがあって」
職場が一緒だなんて言われては面倒なので、言葉を遮って先手を打つ。
この子がおっとりした子で良かった。
会話を遮るなんて簡単で、貼り付けた笑顔で言い訳を並べた。
森川君は私の笑った顔を見て何も言わずにいてくれた。
むしろ『言えなくなった』という表現のほうが正しいかも知れない。
仕事上、笑顔で相手を黙らせるのは得意だったから。
「なんだよ、輝。お前つい最近フラれたばっかりじゃなかったのかよ」
「こんな美人の知り合いがいるなら、別に慰めるために飲み会なんてしなくてよかったじゃねぇか」
「お前の愚痴のために集まってやったっていうのに。お詫びに紹介しろよ」
「この人はそんなんじゃねぇよ」
森川君の声は真剣そのもので、その場の誰もが彼を見つめた。
その声色の大人っぽさに驚いたのは私だけではなかったようで、周りの男の子達も口を噤んだ。
「すみません、杉本さん。お騒がせして」
「あ、ええ。平気よ。ご注文は?」
「お前らビールでいいよな。生七つで」
「・・・はい。じゃあ、少々お待ちください」